講 師 | 足立 己幸 名古屋学芸大学健康・栄養研究所長 |
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全国で食育活動が進められている。昨年、国から発表された第2次食育推進基本計画の目標は「周知から実践へ」。その実現への課題として、3つのポイントがある。
①生涯にわたるライフステージに応じた間断ない食育
②生活習慣病の予防や改善につながる食育
③家庭における共食を通じた子どもへの食育
「共食・孤食」が食事の内容と深くかかわっていることを30年ほど前に高齢者の食生活調査結果で発表し、この視点を入れた食教育の重要性を強調し続けてきたので、私は感無量である。そして共食のほか、孤食の悲しい名づけ親と呼ばれているので、今原点に戻ったつもりで、“それぞれの年代やライフスタイルにあった共食”、とりわけライフスタイルが大きく変化している高齢者の共食を多くの人が楽しめる環境・社会でありたいと願っている。
バランスのとれた食事と一言でいうが、いろいろのレベルや範囲がある。例えば、食事について“脂質だけでなくビタミン類も摂ろう”というのは「栄養素(間)のバランス」。“肉や魚だけでなく野菜もしっかり・・”というのは「食材料のバランス」。“1食に主食・主菜・副菜を組み合わせて”は「料理のバランス」。朝食・昼食・夕食の「3食のバランス」。「味のバランス」。おいしい食事を求める食べ手側と、それを準備する側の負担とのバランスもある。「食事と運動と休養のバランス」、「生活費の中の食費と他の経費とのバランス」。国サイズでいえば、低迷が続く食料自給率(エネルギーベースで40%以下)は輸出入のバランスで、国民の食の安全や保障に大きく関係している。
私たちはこれらのすべてがうまく進むことを願って、日々食物選択をしている。現実には、全体のバランスの中で、自分が最も重要だ、大事にしたいと考えるバランスを取り上げ、科学的根拠のある、自分が使いやすい尺度を選んで、日々の行動に使うことが必要になる。自分にとっての共食と孤食のバランスを考えることも食事のバランスの1つになる。
「食事を構成する料理のバランス」は日本人の生活文化の中で生まれ育ち、栄養学研究により価値づけがされているのは、1食の基本に「主食と主菜と副菜料理を組み合わせる」こと。その量的なバランスは容積比(上から見ると面積比)“主食(ごはん)3・主菜1・副菜2”の割合にするとよい。重要なことは全体量で、高齢者の場合は1食あたり600-700ミリリットル入りの弁当箱にしっかり詰め合わせること(足立ら;「3・1・2弁当箱法」)。このルールを守ると、弁当箱の容量と同じ数値のキロカロリー(600ccの弁当箱なら600キロカロリー)で主な栄養素のバランスがほぼ良好になること、日本人の食文化をふまえた味のバランスが良いこと、ごはんが中心なので食料自給率も60%以上になることが明らかになっている。主食は穀物を主材料とするので、でんぷんからのエネルギー源になる。主菜の主材料である魚、肉、卵、大豆・大豆製品などは、たんぱく質や脂質を主に含んでいるので、筋肉や血液など体をつくるもとになる。副菜は、野菜、いも、きのこ、海藻などのたっぷり入った料理である。いろいろな種類のビタミン、鉄やカルシウムなどのミネラルや食物繊維を多く含むので、栄養素の全体調整をして、体の栄養の営みを円滑にする。主食・主菜・副菜のバランスよい食事は食材料レベルからも栄養素レベルからもよいバランスが保障される。
共食や孤食について全国的なコンセンサスを得た定義は出ていないが、多くの提案があるので、自分たちの活動の目的や方法にそって検討をし、“自分たちの定義”を確認し、共有していくとよい。この検討のプロセスで、逆に食活動の目的やコンセプトについて具体的にチェックし、内容を充実させるチャンスにもなる。検討のポイントは次の通り。
共食研究の出発点になった1976年の高齢者食生活調査以来、2002年の「65歳からの食卓」調査を含むさまざまな地域や集団の調査により、家族との共食頻度が高い高齢者は低い人に比べて“食事内容の量・質両面の問題点が少ない、健康、食生活や生活、人間関係や生きがい・生活の質について積極的な態度や良好な行動の人が多い。特に地域での社会活動へ参加している高齢者にこの傾向が強い”ことが明らかになっている。これらの結果から、共食を高齢者に勧めるときは、“一緒に食べよう”と誘う方法に加えて、自分を生かすような地域活動への参加を促すことが、結果としては共食頻度も多くなって、食事内容のバランスが良好になることが期待される。
共食が良いことはわかっているが、実行は難しいと思っている人が少なくない。上記のことから2つのヒントを提案する。
1つは、共食について受信型から発信型へと発想の転換をする。人に言われてやるのではなく、“やりましょう”と勧める側になる。共食をめぐる体験、失敗や悩み事を含めて、話し合う場づくりが良いきっかけだ。配食サービスは頻度多く“食情報を共有する”最良の場である。利用者にとっても食事を受け取るだけでは“孤食”へつながる可能性が高いが、積極的な話しかけや会話は“共食行動”のチャンスをつくる。
2つは、共食づくりを自分が計画・実施・評価・そして次のアクションプランへと進めること。実行の方法はそれぞれの得意なこと、強みや活動の場を活かして、チームワークですすめる。こうした話し合いが、すでに新しいタイプの共食、“共食づくりの共有”になる。