明治、大正時代の写真を見ると、人々の衣装風俗だけでなく、体つきや顔つきまで現在の私たちとは違うように見えます。当時の平均寿命は50歳に満たず、欧米の先進国と比べるとかなりの短命国であったといえます。
日本人の平均寿命が50歳を超えたのは、昭和22年です。そのあたりから平均寿命が延びはじめ、体つきも変わり、親より子、子より孫の身長が高くなっていきました。同時に、食生活は豊かになり、近年では、日本は世界一の長寿国となりました。
日本人の平均寿命が延びた最大の要因は、食生活にあります。食生活が改善され、健康の水準が向上したからです。病原体に対する抵抗力が強くなり、結核などの感染症も激減し、脳卒中も減少しました。
食生活の改善で最も注目されているのが、食肉や牛乳・乳製品など、動物性食品の摂取が増えたことです。
戦前の日本は、たんぱく質と脂肪の摂取が極端に少なく、逆に食塩は取り過ぎていました。大正7年のある農村における記録では、4人家族の平均的な食生活は、漬物やみそ汁をおかずに毎食5合のご飯を食べるということでした。そして塩蔵の魚を週に5回食べていました。1人当たりのカロリー摂取量は、1日2,100キロカロリーと、現代より多いものの、食事内容は、動物性食品の摂取量は15g、油脂類はほぼゼロでした。このような、粗食といってもよい食事が、感染症の多発を招いていたのです。
食事内容が大きく変わったのは、昭和40年以降です。食肉や牛乳・乳製品がよく食べられるようになりました。これに伴い脳卒中による死亡が減りはじめました。脳卒中の原因のひとつとしては、コレステロールの不足がいわれています。
昭和30年生まれくらいの人から、日本人は急速に体格が大きくなります。もちろん、体格の変化には、食べ物だけでなく、畳に座る生活習慣から椅子を利用する生活に変わるなど、ライフスタイルの変化も影響を及ぼしていると考えられます。
体格を形づくる骨の成分は、その65%がミネラルのカルシウムでできています。そして、骨の土台となる骨基質(こつきしつ)の部分は、たんぱく質のコラーゲンでできています。コラーゲンは、骨の成分の約30%を占め、その他、皮膚や腱、軟骨などの結合組織の主成分ともなっているものです。骨は、網状の骨基質にカルシウムが絡まる形でできています。そのため、たんぱく質の摂取と骨密度には深い関係があると考えられています。
脂質も骨密度と深い関わりがあります。脂に溶けるビタミンDなどは、骨のカルシウム代謝に重要な役割を果たしています。
日本人の体格が大きくなり、世界一の長寿国となった背景には、食肉や牛乳・乳製品などの動物性食品の摂取が増えたという事情があったわけです。