チーズがいつ頃から食べられるようになったのか、はっきりしたことはわかっていませんが、紀元前4000年頃の古代エジプトの壁画には、すでにチーズの製造法が描かれています。
さらに、紀元前2000年頃のアラビアの民話には、つぎのような話があります。「砂漠を行くキャラバンが、羊の胃袋で作った水筒に乳を入れ、ラクダの背にくくりつけて旅に出ました。1日の旅を終えて乳を飲もうとすると、出てくるのは水っぽい液体と白い固まりだけでした。その白い固まりを食べてみると、それはおいしくて何ともいえない味でした。」このような偶然の出来事がチーズの誕生とされています。水筒に使った羊の胃袋の中にあったレンニンという酵素により、乳が固められ、歩いている間に揺られてチーズになったということです。この原理は、何千年たった今でも、変わっていません。
ローマ帝国が栄えた頃には、チーズ作りは大切な産業となりました。詳細なチーズの製法の記録が残っています。これが秘伝のように伝えられ、中世の修道院や封建領主によって守られ、長い歴史の中で、地方色豊かなたくさんの種類のチーズが生まれました。
さて、日本では、さかのぼること飛鳥時代に、「酥(そ)」と呼ばれていたものが、チーズの一種に当たるといわれています。今の製法とは違い、牛乳を煮詰めて固めたもののようです。平安時代の醍醐(だいご)天皇は、諸国に命じて「酥」を作って天皇に貢ぐ儀式を行っていました。醍醐天皇は、酪農のこの上ない理解者だったといわれ、「酥」が熟した「醍醐」を、自身の名につけたほどです。
江戸時代になると、8代将軍徳川吉宗は、オランダ人に勧められて、インドから白い牛3頭を入手し、その牛乳から乳製品を作っています。これは、牛乳を煮詰め、乾燥させて団子に丸めたものです。バターという説もありますが、よりチーズに近いものといわれています。
近代的なチーズは、明治8年、北海道開拓庁の試験場で初めて試作されました。しかし、昭和初期までチーズの消費量はごくわずかで、ほとんどが輸入品でした。本格的に作られるようになったのは、昭和に入ってからのことです。
急激に消費が伸びたのは、食生活の洋風化や生活水準が向上した昭和30年後半からとなります。昭和50年代になると、ピザが普及し、チーズケーキブームが起こり、これまでの加熱殺菌するプロセスチーズに加え、乳酸菌が生きているナチュラルチーズの消費が増えていきました。
ナチュラルチーズは、乳を豆腐のように乳酸菌や酵素の働きを利用して固め、水分を減らしたもので、多くの場合、発酵熟成させて作ります。一方、プロセスチーズは、1種または数種のナチュラルチーズを粉砕し、加熱して溶かし合わせ、乳化させて作ります。
チーズ全体の年間消費量をみると、昭和50年は6万3千トンでしたが、平成19年には27万9千トンにまで伸びています。特にナチュラルチーズの増加は著しく、昭和50年にはほんの9千トンだったのが、平成19年には16万3千トンと18倍も増加し、ナチュラルチーズがプロセスチーズの消費量を抜いています。
ナチュラルチーズは、国産ものも増えてきており、熟成させないフレッシュタイプのカッテージやモッツァレラ、白カビを表面に繁殖させて熟成させたカマンベールなどはお馴染みとなりました。その他、青カビで熟成させたゴルゴンゾーラや硬くて保存のきくチェダー、パルミジャーノ・レッジャーノは料理などにも使われるようになりました。
ちなみに、チーズは、牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする人でも、製造中に水分とともに乳糖がほとんど除かれているので大丈夫です。
バターの起源も定かではありません。しかし、紀元前2千年頃に書かれたインドの経典には、すでにバターらしきものが作られていたという記録がみられます。
旧約聖書の中にも「かくてアブラハムはバターを取り、乳を取り…」という一節があり、バターは大昔から作られていたことがわかります。
紀元前500年頃のギリシャの歴史家ヘロドトスは、「馬や牛の乳を木の桶に入れ、奴隷を使って激しく振動させ、表面に浮かびあがった部分をすくい取ってバターを作った」と書き残しています。
ちなみに、古代アラビアでは、革袋に乳を入れ、それを振動させてバターを作っていました。また、古代のギリシアやローマでは、バターは食料としてよりも、医薬品や化粧品として用いられたようです。
食用としての普及は、紀元前60年頃のポルトガルから始まりました。そして、フランス、ベルギー、ノルウェーとヨーロッパ各地に広がっていきました。
バターの製造方法は、革袋や木製・陶器製の容器をゆり動かす方法から、石や陶器製の鉢に入れ、ヘラ状の棒で撹拌する方法へと変わり、17世紀末になると動力が利用されるようになりました。しかし、牛乳から分離したクリームを強く撹拌することによって、乳脂肪を集めて固めるという方法は今でもほとんど変わりません。
日本には、仏教とともに、6世紀ごろ渡来しました。わが国の最古の乳製品といわれる「酥(そ)」は、チーズともバターともいわれています。
18世紀以降から、本格的に乳製品が日本へやってくるようになりました。長崎の出島にあったオランダ商館では牛や山羊が飼われ、バターが食べられていたといいます。そして、19世紀になると、明治政府は、西洋にならって、広く国民に牛乳の飲用をすすめ、畜産を奨励し、バターが本格的に製造されるようになりました。
なお、ヨーロッパなどでは、古くからバターが作られ食べられていましたが、そのころの技術では、牛乳からクリームを充分に分離するのに時間がかかっていました。そのため、自然に乳酸発酵が進み、できあがりは発酵バターでした。その伝統が受け継がれ、現在でも発酵バターが主流となっています。
それに対し日本の場合、近代的な製造技術とともに導入されたため、非発酵バターが主流となっています。しかし、最近では、発酵バターも増えています。乳酸菌の種類によって風味が異なるので、日本人に好まれる風味の発酵バターを作る研究も行われています。
その他、バターを分類すると、食塩を加えた有塩バターと生乳由来のものだけの食塩不使用バターがあります。
バターは、牛乳の乳脂肪を取り出し、練り上げたものなので、成分の80%は乳脂肪です。 この乳脂肪は、食用油脂の中でも最も消化がよく、吸収率は97%から99%になります。油に溶けるビタミンAが豊富で、ビタミンDやEも含まれています。昔から栄養豊富な貴重な食べものであったわけです。
現在の一般的な製造方法は、生乳を遠心分離によってクリームを分離し、殺菌、冷却して、エージングと呼ばれる低温での熟成を行います。つぎに、10度以下の温度の中で激しく撹拌するチャ—ニングを行い、脂肪球を凝縮してバター粒をつくります。これを水洗いし、塩を加え、練り合わせるワーキングを行い、充填・包装されて商品となっています。
日本でのバターの生産量は、平成17年度で8万5千トンとなっています。